産後ケア

産後はいつから走ってもいい?産後のランニングの注意点と再開の仕方

産後はいつから走ってもいい?産後のランニングの注意点と再開の仕方

産後はいつから走ってもいい?産後のランニングの注意点と再開の仕方

こんにちは!妊娠中&産後専門フィットネストレーナーのYUMIです。

今回は、ランニングを始めようかと考えているママさんに向けたトピックです。

インスタグラムなどを見ていると、産後すぐに「体を元に戻そう」としてランニングをする方がいらっしゃいます。

「産褥期1ヵ月は横になっていたほうがいい」という考え方が定着している日本でも、最近は「産後はすぐに動けた方がカッコイイ」という考え方を持つ女性が増えてきています(産後の体の解剖学について知る前の私もそうでした)。

産後1ヵ月以内にランニングを開始する方はいなくても、「1ヵ月検診で医師の許可を得られればランニングもOK!」と考えている方が大半かと思います。

ですが、本当にそれでにいいのでしょうか?
赤ちゃんを通すために引き延ばされた骨盤底の筋肉や靭帯や腱は、そんなにすぐに戻るのでしょうか?
妊娠中10ヵ月間赤ちゃんを載せていた骨盤底筋群は、そんなにすぐに治癒するのでしょうか?

妊娠中&産後専門のトレーナーとして結論から言うと、私は産後1ヵ月でクライアントを走らせることは絶対にしません。

その理由と、安全な産後のランニングの再開方法を説明していきます。

産後はいつから走ってもいい?産後のランニングの注意点と再開の仕方

産後すぐに走ることのリスク

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妊娠・出産を終えた骨盤底筋群(尿道・膣・肛門を囲む筋肉)は弱っており、ケガをしたような状態になっています

骨盤底筋群は、膀胱、子宮、直腸といった内臓を支えている筋肉です。
経腟出産で思いっきりストレッチされたり、会陰切開で切られてしまう骨盤底筋群。怖い表現になるかもしれませんが、産後は「ボロボロの布切れの上に内臓を載せている」ような状態なのです。

帝王切開であったとしても、妊娠中は子宮の重さが胎児・羊水・胎盤を含めて5キロ前後になります。当然、それを支える骨盤底筋群には非妊娠時よりも負荷がかかっています。

経腟出産のように膣の周りは直接ダメージを受けなかったとしても、帝王切開の産婦さんでも尿漏れや骨盤臓器脱といった症状に悩まされるケースもあります。

ランニングで骨盤底筋群にかかる負荷

ランニングでは骨盤底筋群はどのような動きをするのでしょうか?

骨盤底筋群も他の骨格筋と同じように、伸張性収縮(エキセントリック)と短縮性収縮(コンセントリック)の動きをします。

排尿や排便をする時は、お腹に力を入れて尿や便を押し出します。この力を入れる動作で、内臓が下に動き、骨盤底筋群は下に向かって伸張性収縮(エキセントリック)をしています。

一方で、くしゃみや咳をした時は、膀胱や直腸の中身が外に出ないように、骨盤底筋群は上に向かって短縮性収縮(コンセントリック)をする必要があります。この時に骨盤底筋群が下に向かってエキセントリックな動きをしてしまうと、尿漏れや便漏れに繋がるというわけです。

ランニングのような衝撃力の大きい運動では、腹腔内圧(intra-abdominal pressure)がかかります(1)。腹腔内圧とは、お腹に入っている内臓の圧力のことです。

ということは、骨盤底筋群が下に押される動き、つまりエキセントリックがかかるということ。産後に十分に治癒していない骨盤底筋群にとっては、かなりの負荷になります。ランニングとは、小さなジャンプ運動の積み重ねですからね。

また、15分で2.75km(時速11キロ)程度の適度な速度でのランニングでも、体重の1.6~2.5倍の負荷が体にかかります(2)。
そのどれくらいの衝撃が下半身に吸収され、骨盤底筋群に響くのかは定かではありませんが、ランニングを開始する際には、内臓が上下する負荷を支えられるだけの強さが骨盤底筋群に回復している必要があります

骨盤底筋群が完全に治癒するには1ヶ月以上かかる

産後の1ヶ月検診をクリアすれば、全てが治癒したと思われがちです。しかし、骨盤底筋群が完全に治癒するには実はもっと時間がかかるものなのです。

例えば、尿道、膣、肛門の空洞(挙筋門)は妊娠中に広がり始め、経腟出産では大きくストレッチされます。それが妊娠前のサイズに戻るまでに12ヶ月かかると言われています(3)。

膣や肛門を囲む筋肉(肛門挙筋)とその周りにある結合組織と神経の治癒は、産後4~6ヵ月に最大化されるといいます(3,4)。

産後3ヵ月以内にランニングを開始するのはリスクが高い

オーストラリアやカナダ、アメリカには、骨盤底筋群を専門とするフィジカルセラピーというものがあって、産後や更年期にそういった所に通う女性が増えてきています。

骨盤底筋群専門のフィジオセラピストがまとめた産後のランニングへの戻り方に関する報告書によると、産後3ヵ月以内のランニング開始はリスクとみなされています(5)。

日本では1ヶ月検診が終わったら何してもOK、のような見方がされていますが、海外の骨盤底筋群の専門家の間では、もっと保守的な見方が一般的です。

このため、この報告書では産後のランニングは低負荷のトレーニングを経てから、産後3~6ヵ月以降に再開することが推奨されています

ランニングを開始しても以下の症状があったら要注意

産後3ヵ月以降であっても、以下のような症状があったら要注意です。骨盤底筋群専門のクリニックにかかることをおすすめします。

・骨盤底まわりに何かが下がってきているような感覚(骨盤臓器脱と関連)
・尿漏れや便漏れ
・腹部の左右の筋肉の間の隙間が拾い(腹直筋離開と関連)
・骨盤痛や腰痛
・産後8週間以降でも明らかに生理ではない出血が続いている

そもそもなぜすぐにランニングを再開したいのか?

子供を生んだらすぐまた走ろうと思っていたのに!という方は、楽しみを奪われてしまった気分になるかもしれません。

そんな時は、なぜランニングをしたいのか?と考えてみてください。
大概の場合、ランニングをすると気持ちよく、爽快な気分になるからではないでしょうか・

ランニングをすると、気持ち良い!快感だ!と感じた時に出る脳内神経伝達物質の「エンドルフィン」が分泌されます。また、リズム運動をすることで、幸福ホルモンの「セロトニン」なども分泌されます。
全身に酸素や血流が巡ることも、気分が爽快になる要因の一つです。

しかし、ランニング以外にも、これらの感覚を得られる方法はあります。
例えば、早歩きは骨盤底筋群にも負荷が少なく、心拍数も上がりやすいので、同じ効果が得られます。低負荷の筋トレでも良いでしょう。

おそらく産後数週間~数ヶ月でのランニングは、出産直後の体にとっては心地よいものではないでしょう。
まだ痛みもあり、安定しない母乳の供給で乳房も痛むかもしれません。尿もれもあるかもしれません。

産後に骨盤底筋群の治癒を優先させてあげることで、また高負荷に耐えられる体に回復していきます。結果、長く症状なしに走れるようになってきます。

産んだらすぐに走りたい!と思っていた運動好きなママさんも気落ちせずに、まずは骨盤底筋群とその他の筋肉の治癒を優先しましょう。

私のYouTubeには産後すぐにできる骨盤底筋群のトレーニング方法や、低負荷の筋トレを紹介していますので、ぜひ取り入れてみてくださいね!

▶産後エクササイズ プレイリスト

産後のランニングの開始方法

まずは、以下のような症状がないか確認してみましょう。

・痛みや生理以外の出血がないこと
・骨盤底筋群に違和感がないこと(下がってきている感じや、重くてダルい感じ)
・尿もれがないこと
※あったとしてもコントロール可能な範囲であること(おりものシートがしめる程度、など)

開始時は、いきなりキロ単位で走るのではなく、インターバルトレーニングから開始しましょう。

最初のトレーニングは、30メートル走って、60メートル歩く、といったインターバル走から開始します。

何も違和感を感じなくなったら、距離を徐々に伸ばしていくと良いでしょう。

くれぐれも「妊娠前・妊娠中はこんなに走れたのに!衰えた!!」と自分を責めないようにしてください。

産後直後はケガをしているのと同じなのです。脚を骨折した人も、いきなり何キロも走ったりはしません。低負荷のトレーニングから開始するはずです。

それと同じように、産後のランニングも徐々に慣らしていくようにしましょう!

産後のメニューの組み方がわからない、ランニングに戻る前にコンディションを整えたいという方は、オンラインパーソナルトレーニングも受けていますので、お気軽にご相談ください。

<参考文献>
1. Leitner, M., Moser, H., Eichelberger, P., Kuhn, A. and Radlinger, L. (2016) Evaluation of pelvic floor muscle activity during running in continence and incontinence women: An exploratory study.
2. Gottschall, J.S. and Kram, R. (2005) Ground reaction forces during downhill and uphill running.
3. Reimers, C., Siafarikas, F., Stær-Jensen, J., Cvancarova, S., Bø, K. and Engh, M.E. (2018) Risk factors for anatomic pelvic organ prolapse at 6 weeks postpartum: a prospective observational study.
4. Khunda, A., Shek, K. and Dietz, P. (2012) Can ballooning of the levator hiatus be determined clinically?
5. Tom Goom, Grainne Donnelly, Emma Brockwell. (2019) Returning to running postnatal – guidelines for medical, health and fitness professionals managing this population

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