トレーナーなのにこんなトピックで記事書いてごめんなさい(笑)。
運動してもしても全く痩せないのがお悩みという人も多いかと思います。毎日何十分も走っているのに一向に痩せる気配がない・・・それなりの時間やお金をかけて運動をしているのに無念ですよね。
そんな方の期待を裏切るようですみませんが、運動では痩せないということが色々な研究で分かってきてしまっています。特にランニングなどの有酸素運動では。
これ以上ダイエットのために時間を無駄にしないためにも、今回は一つの見解として人類学者のハーマン・ポンツァー氏が行った研究についてご紹介したいと思います。
狩猟採集民族も都市で暮らす現代人もエネルギー消費量はあまり変わらないらしい
ポンツァー氏は、ハッザ族(ハッツァ族)というタンザニアの狩猟採集民族の活動量とエネルギー消費量を調べました。ハッザ族は世界に残された稀有な狩猟採集民族で、農耕牧畜文化が始まる前と極めて近い暮らしをしている人々です。
女性は毎日採集に出かけ、ベリー、フルーツ、イモ類などを見つけてきます。男性は弓と槍を手に狩りに出かけ、獲物を探して何時間も歩く、というワイルドな生活を送っています。
彼らは何の穀物や野菜も栽培していないし、家畜もいません。まさに自然の恵みだけに頼って生活している人たちです。
ポンツァー氏は二重標識水法(DLW Method:Douly Labeled Water Method)という手法でハッザ族のエネルギー消費量を調べました。
これは重水素と酸素18を混ぜた水を飲ませ、尿にその物質がどれくらい出てくるかで二酸化炭素の排出量を計算し、その結果一日のエネルギー消費量が分かるという手法です。
二重標識水法は現時点でエネルギー消費量を最も正確に測れる方法とされていますが、酸素18が高額なため、まだ一般的には普及していないのです。
さらにGPSを着けてもらい、男性で一日に平均11キロ、女性は平均5キロほど歩くことがわかりました。
これに加えてハッザ族は動物を全力で追いかけて死ぬまで槍で刺したり、地面にかがんでイモを掘り起こしたり、それを何キロも足で運んだりするので、普通であればかなりのエネルギー消費量が予測されるものです。
が、男性の一日の平均カロリー消費量はたった2600kcal、女性は1900kcalだったのです。
これは都会で生活するアメリカ人とほとんど変わりませんでした。
※エネルギー消費量=カロリー消費量
ロヨラ大学シカゴ校の研究者が行った研究でも、同じような結果が見られました。
今度はナイジェリアの田舎に住む女性とシカゴに住むアフリカ系アメリカ人の女性の、エネルギー消費量と身体活動レベル(PAL:Physical Activity Level)をハッザ族と同じ二重標識水法で調べました。結果、身体活動レベルは大きく違ってもエネルギー消費量がそこまで変わらなかったのです。
人間だけではなく、霊長類を調べた研究でも同じでした。
実験用または動物園で暮らす霊長類と、壮大な自然界を生きる野性の霊長類で同じ調査をしたところ、エネルギー消費量に大きな変化は見られなかったようです。
めちゃくちゃ運動してもソファーにゴロンしてても200kcalしか変わらない
さらにポンツァー氏は、都会で暮らす人々に焦点を当てました。
この研究でも、かなりショッキングな結果が出ました。
・激しい運動をしている人々と、中程度の運動量の人々の消費カロリーはほとんど変わらなかった
ということは、めちゃくちゃ運動していても、ソファーでだらだらしてばかりでも、消費カロリーは200kcal程度しか変わらないということですよね?!200kcalとか、ちょっと大きいおにぎり1個食べたら達しちゃうじゃないですか。
ランニングマシーンによく表示される「○○分走ったら△△kcal消費」というのは、何だったのでしょうか・・・?
なぜこんなにエネルギー消費量は変わらないのか?
明確な答えは明らかになっていないようですが、今回の研究を行ったポンツァー氏は、体は活動レベルに応じて細胞や内臓の働きなど見えないところでのエネルギーの消費量を減らしているのではないか、と推測しています。
例えば運動をすると炎症が治まることが分かっています。運動で使われた部分のエネルギーを炎症を抑えることで補っているのかもしれません。
▼炎症について詳しくは
また、運動をするとエストロゲンなどの生殖ホルモンも減ります。動物実験では、エネルギー消費量は変わらなくても排卵のサイクルが遅くなるといった傾向が見られたようです。
女性は激しい運動をしすぎると生理が止まったりするのも、これが関係しているのかもしれませんね。
あとは、風邪をひいたときに爪が伸びるスピードが遅くなったり、鼻水が妙に出ると排尿が減ったりすることはありませんか?体はよ~く出来ているので、活動量が多い時には他で節約するようになっているのです。
単純なカロリー計算はあまり意味ないことが分かってしまった
ということで、ランニングマシーンなどに表示される「○○分走ったら△△kcal消費」というのは間違いということになってしまいますね。
ランニングマシーンは、心拍数や体重によって消費カロリーを計算しますが、実際に消費されるカロリーはその人の体脂肪、筋肉量、年齢、代謝、フォームなどによっても変わってきます。表示される消費カロリーは、そういった点をまったく加味していないことも念頭に置く必要があります。
なので、「私の基礎代謝は1300kcalで、今日は1500kcal食べて、300kcal分走ったから、100kcal分が浮くはず」といった単純計算は成り立たなくなってしまいます。
つまり「食べたらその分動けばいい」という常識は間違いということです。
私もよく食べ過ぎた時に、必死で走ったり筋トレしたりしていたこともありますが、そう簡単に摂取したカロリーが運動で消費できるわけではないんですね。
かといって運動は無駄じゃない
じゃあ運動なんてしなくてもいいじゃん!となるかもしれませんが、ちょっと待った!
運動には数えきれないほどのメリットがあるので、やはりする必要はあります。
運動をすることで血流が良くなり、体の老廃物が外に排出されます。運動はデトックスの意味でも重要な役割を果たしています。
病気の予防にもなります。現に、前述のハッザ族の中では、現代人にありがちな成人病や高血圧は全く見られないそうです。
筋肉量も増え、骨密度も高くなるので、長い目で見ての健康維持にはやはり欠かせないものです。
また、精神的な面でも、運動には気分の向上、集中力のアップ、うつ病の予防や改善など、メリットは数えきれません。
ただし、ダイエットが目的なのであれば、やはり食事の質と量を改善する必要があります。消費カロリーを減らすのはもちろんのこと、糖質ばかりで低カロリーの食事をしていても痩せません。なぜなら、特に精製された糖質は血糖値を跳ね上げ、インシュリンを放出させ、脂肪をため込むからです。
ただやみくもに走ったりしても、ドーナッツやピザやラーメンばかりを食べていたら、ダイエットにはあまり効果がありません。
まずは低糖質、低GI、高タンパク質、高食物繊維な食事を心がけてみましょう。
それでは、もっともっと健康に!
The Scientific American, February 2017. The Exercise Paradox
PLOS. Hunter-Gatherer Energetics and Human Obesity
NCBI. Energy expenditure in adults living in developing compared with industrialized countries: a meta-analysis of doubly labeled water studies.
Hunter College. Energy Expenditure in Humans and Other Primates: A New Synthesis