ホルモン

ヘルプ!食欲が止まらない!① ~渇望感を引き起こすしくみとは?

渇望感しくみ-featured

渇望感しくみ-head普通に食事を摂っていても、なぜか食欲が止まらない時ってありますよね。

食事でお腹がいっぱいになっているはずなのに、食後の甘いものが欲しい。
食べないように我慢していても、ずっとその食べ物のことが頭をよぎり、
結局手を出してしまう。
そして食べ出したら止まらずに、結局一袋食べてしまった。

「どうしてこうなった?!」と罪悪感に押しつぶされそうになる自分。

私自身もとても食いしん坊でして、特に生理前は食欲が抑えられない時があります。
厳しいダイエットや過食症の経験もあります。
「どうしてもあの食べ物を全てお腹に入れてしまわないと気が済まない」といった衝動に、何年も悩まされてきました。

あなたもこんな経験ありませんか?

そんな時に私たちを突き動かしているものは、空腹感ではなく「渇望感」です。

空腹感を促しているのは、胃です
お腹が減ると、グレリンというホルモンが胃から分泌され、お腹が減ったというシグナルを送ります。

一方で、渇望感は脳から起こるものです
渇望感には、色々なホルモンや神経伝達物質が関係しており、それを司っているのは脳の視床下部という部分です。

今回は渇望感を引き起こすメカニズムと原因について解説していきたいと思います。
オタクな内容にあまり興味のない方は、次の記事で具体的な原因を説明しています。

食欲をコントロールするネットワークARN

食欲や渇望感のしくみ

食欲というのはただ胃で感じるものではなく、脳の視床下部を中心とした食欲抑制ネットワーク(ARN:Appetite Regulating Network)によって制御されています。

ARNにはたくさんのホルモンや神経伝達物質が関与しており、視床下部が主軸となって食欲の衝動を体の各器官に伝えています。

そして、このネットワークは環境などの外部要因や、食べたモノなどの内部要因によって、興奮したり鎮静したりします。

ARNは空腹感や満腹感を感じたときに脳内で送られるシグナルによって構成されています。視床下部が軸となり、神経伝達物質(セロトニン、NPY、POMC、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)やホルモン(コルチゾール、コレシストキニン、グレリン、レプチン、インスリン、PYY)が様々な器官とシグナルを送り合います。ARNがこれらの神経内分泌バランスをコントロールすることで、健康的な体重を保つことができます。

反対にこのバランスが崩れると、食欲がおかしくなったり、体重維持が難しくなります。

ARNのメカニズムはかなり奥が深く、まだ解明されていない部分が多いので、ここで詳しく掘り下げることはしませんが、私たちが食欲を感じるときに、これだけたくさんの器官や神経伝達物質、ホルモンなどが関わっていることをまずは覚えておきましょう。

渇望感に関係するホルモンや神経伝達物質

次に、渇望感に関わる主要なホルモンや神経伝達物質を詳しく見ていきましょう。

インスリン(インシュリン)

脂肪をため込んだり血糖値を急降下させるホルモンとして悪名高いインスリンですが、量をわきまえればダイエットの味方になります。

インスリンは血中のグルコース濃度(糖分)が増えると膵臓から分泌されます。つまり、糖質や炭水化物を食べると出てきます。

インスリンは、食欲を刺激する神経伝達物質(NPY)の働きを弱め、満腹感を与える神経伝達物質(POMC)を活性化します。

また、この後触れる満腹ホルモンのレプチンも活性化してくれるので、適度なインスリンの分泌は満腹感アップにつながります。

だったら糖質をたくさん食べてインスリンを大量に出した方がいいのでは?と思うかもしれませんが、そう簡単にはいきません。インスリンが出過ぎると血糖値が下がりすぎて、かえって空腹感を感じるのです

朝に食パンやシリアルを食べて、1~2時間後にはすでにお腹が鳴っていることはありませんか?これは精製された炭水化物や砂糖によって血糖値の急上昇が引き起こされ、インスリンが放出され、血糖値が急降下した時に起こる空腹感です。

また、インスリンは脂肪をため込むので体重増加につながります。さらに、インスリンが出過ぎている状態が続くと効きにくくなってきます。これをインスリン抵抗性というのですが、この状態が続くと2型糖尿病をはじめ様々な病気の原因となります。

ですので、食欲コントロールの観点でインスリンの機能をまとめると、適度の量であれば満腹感を与えてくれて食欲の抑制になりますが、大量に出ると血糖値が落ちて空腹感が起こり、過食の原因になりかねないということです。

レプチン

レプチンは食欲を抑えてくれる重要なホルモンです。食事を始めてしばらくすると、食欲を抑制するように視床下部に働きかけます。

そして長い時間食べていないとレプチンの量が減り、空腹を感じるようになります。

レプチンが食欲を抑えてくれるなら、たくさん分泌されればダイエットになるんじゃないの?と思うかもしれません。皮肉なことに、レプチンは脂肪細胞から分泌されるのです。肥満であればあるほど、もちろん脂肪細胞も多いですよね。そうするとあれ?レプチンも多くなるということです。

これもインスリンと同じように、レプチンが多すぎると効果が弱まってしまうことが多くの研究で分かっています。肥満の人は、満腹ホルモンのレプチンが多いはずなのに、レプチンに対する抵抗性が高く、たくさん分泌されてもうまく使われないのです。だから、満腹感が抑えられないというおかしな方程式が成り立ってしまいます。

グレリン

グレリンは胃が空っぽになったときに胃から分泌され、空腹のシグナルを送るホルモンです。

グレリンはARNを通して視床下部に働きかけ、食欲をアップさせます。
お腹がぐ~っと鳴った時には、グレリンが出ているんですね。

また、グレリンは成長ホルモンの分泌を促してくれます。
成長ホルモンは細胞の再生や修繕を司るものです。

さらに、適度な空腹は消化器官を休ませ、体の修繕にエネルギーが回されることになります。つまり空腹はアンチエージングにつながるんですね。

お腹が減っている状態というのは、体に悪いことではないのです。

ドーパミン

食欲や渇望感のしくみ-ドーパミン-01

いわゆる「報酬系ホルモン」のドーパミンは、私たちが何かをしたいと思う欲求を突き動かすものです。
※ドーパミンやこの後出てくるセロトニンは神経伝達物質なのですが、ホルモンとしての働きもするため、同様に扱われることがあります。ここではホルモンとします。

過去の記事「ソーシャルメディアに依存してない?SNSの脳への影響とは」でも触れましたが、ドーパミンが放出されるのは気持ち良い、嬉しい、と感じた時です。

ドーパミンは快楽や喜びなどの「報酬」を得ることで放出されるホルモンで、モチベーションアップにつながります。満足感を与えてくれ、ハイな気分にさせてくれるホルモンでもあります。

ドーパミンが与えてくれる快感があったからこそ、人間は狩りをし、耕作をし、子孫を増やし、そして現代の技術を発展させるモチベーションを保つことができました。ドーパミンは人類の発展には欠かせなかったのです。

一方で、ドーパミンは依存症に深く関係しています。
コカイン、ニコチン、アルコールなどの依存性物質はドーパミンを急激に放出させ、快楽を与えてくれます。

ドーパミンが大量に放出されると脳は心地よい気分に浸って安定し、低下してくると不安定になってくるので、もっとドーパミンを欲しがります。そしてドーパミンが得られる行動に走ります。

また、依存性物質だけではなく、砂糖や精製された炭水化物も同じような効果をもたらすという研究がいくつもあります。

砂糖や小麦粉などの白い炭水化物に依存しやすいのは、ドーパミンの影響でもあるのです

そして急激に増えたドーパミンの量が減ってくると、また渇望感が襲ってきます。

ですので、渇望感で悩んでいる人はドーパミンの波が不安定な場合が多いため、ドーパミンを放出させるような食事や行為を控えて、安定させることが重要です。またこの後触れますが、ドーパミンの安定にはセロトニンという別のホルモンが欠かせません。

ちなみに、ドーパミンの量や受容体(細胞側の受け皿)が遺伝的に少ない人は、脳が必要とする一定のドーパミンレベルに達するために、もっとたくさんの食べ物を必要とします。よって、肥満の人にはこういったケースが多く見られています。

セロトニン

セロトニンは、心地よいと感じたときに出る「幸福ホルモン」で、気分や恒常性バランスを保つ役割をします。恒常性とは、外部の環境にかかわらず体の調子を一定に保とうとする力のことです。

笑ったり、まったりと癒された環境にいると分泌され、ストレスを軽減してくれます。

そしてセロトニンは食欲を抑えてくれるので、渇望感をストップさせるには重要なホルモンなのです。

セロトニンは糖質やタンパク質に含まれるトリプトファンを原料として作られます。ストレスが溜まったときに無性に甘いものが食べたくなるのは、脳がセロトニンの分泌を欲しているからでもあるんですね。

一方でセロトニンが不足すると気分が落ち込み、うつ病につながります。抗鬱剤はセロトニンの増加や効率化、またその働きをまねたものであったりするものが多く、現代人のうつ病増加はセロトニン不足が大きな原因の一つです。
また、不眠症、パニック障害、摂食障害、不安感、自信喪失、恐怖症などもセロトニン不足の症状です。

気分や食欲のコントロールの他にもセロトニンは消化の促進、睡眠の質アップ、血圧の安定、記憶力などにも深く関連しています。私たちが正常に社会生活を送るためには欠かせないものなのです。

セロトニンは脳の神経伝達物質ですが、実は80~90%が腸内で作られているということが最近分かってきました。腸内環境の悪化も気分障害に関係しているのです。

便秘がちだとイライラしてしまうことってありますよね。その反対に、快便だと世界中の人に優しくしたい気持ちになりませんか?笑

これもセロトニンと関係しているんですね。

その他にもカフェインの過剰摂取、日光浴不足、睡眠不足、運動不足などはセロトニンの低下を招いてしまいます。

また、渇望感をコントロールする上で知っておくべきことは、セロトニンとドーパミンは非常に深く関連しているということです。
セロトニンは、快楽だけを追求するドーパミンが暴走するのを抑制してくれるのです。

セロトニンがきちんと分泌されることでドーパミンの働きが抑制されるので、甘~い「報酬」を求めて「狩り」にいくことをストップしてくれます。

渇望感を感じている時は、セロトニンがドーパミンを制御できていないことも原因の一つとされています。

まとめ

今回取り上げたもの以外にも、十二指腸や空腸から出るコレシストキン、直腸から出るPYYなど他にも色々なホルモンや神経伝達物質がARNに関与しています。

「何かを食べたい」とか「お腹いっぱい」とか思うとき、これだけ色々な物質が私たちの体の中では連絡を取り合っているんですね。

渇望感は悪いことではなく、体が本来の恒常性バランスを取り戻そうとして私たちに知らせてくれるシグナルです。渇望感はわたしたちの「意志のなさ」や「弱さ」ではなく、体に備わった機能なのだということを念頭に置いて、まずは自分を責めるのをやめてあげてくださいね!

次の記事では具体的に私たちのライフスタイルのどういうことが原因で、バランス崩壊を引き起こすのかを見ていきます。

<参考文献>
News Medical. Dopamine levels and appetite
NCBI. Carbohydrate Reward and Psychosis: An Explanation For Neuroleptic Induced Weight Gain and Path to Improved Mental Health?
Forbes. The Price To Pay For Eating Highly Processed Carbohydrates
Medical News Today. Gut microbes important for serotonin production
NCBI. Serotonin control of central dopaminergic function: focus on in vivo microdialysis studies.
NCBI. “Dopamine-dependent” side effects of selective serotonin reuptake inhibitors: a clinical review.
The Model Health Show. The Science Of Cravings: Serotonin, Dopamine, And Cheetos

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