こんにちは!
産前産後フィットネストレーナーのYUMIです。
この記事では、「妊娠中にしていい運動・してはいけない運動」について、最新のガイドラインは何と言っているか、解説していきたいと思います。
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妊娠中の運動について規定された「ACOGガイドライン」とは
妊娠中の運動については、アメリカ産婦人科学会(ACOG)の出しているガイドラインが権威あるソースとされています。
帝王切開の仕方から産後の過ごし方まで、産前産後にまつわるさまざまな方針がACOGガイドラインに定められており、医師や助産婦、その他医療業界に従事するプロたちがこれを参考にしています。
日本で出ている妊娠中の運動についてのガイドラインも、ほとんどがACOGガイドラインに基づいています。
ですが、このACOGガイドライン、2年に1回見直しがおこなわれるんですよね。
最新版は2015年版で、2017年、2019年と見直しがおこなわれています。
しかし、日本語の情報は、1985年など古いACOGガイドラインを参照しているものが少なくないです。
例えば、妊娠中の運動は心拍数が150bpm以上にならないように、という記述はすでに古く、最新のACOGガイドラインでは心拍数の制限は定めていません。
最新のACOGガイドラインでは、妊娠中の運動は「してもいい」ではなく「したほうがいい」です。推奨されているんです。
“Women with uncomplicated pregnancies should be encouraged to engage in aerobic and strength-conditioning exercises before, during, and after pregnancy.”
『合併症のない妊娠をしている女性は、有酸素運動およびストレングス&コンディショニング運動(筋トレやストレッチなど)に、妊娠前、妊娠中、産後を通して携わるように、奨励されるべきである。』
では、どんな運動は推奨されていて、どんな運動はされていないのでしょうか?
最新のガイドラインが何と言っているか、見てみましょう。
【2019年版】妊娠中にしていい運動・してはいけない運動!最新のガイドラインは何と言っている?
妊娠中はどんなエクササイズをどれくらいしたらいい?
まず気になるのは、「どんなエクササイズを、どれくらいしたらよいか?」ということ。
ACOGのガイドラインで推奨される運動量はこんな感じです。
・1日20~30分間
・週のほとんど毎日
・計、週に150分
週に150分って、結構たくさんですよね!
では、「中程度の強度の運動」とはどんな運動のことを指すのでしょうか?
運動の強度は、「トークテスト」で計ることができます。
「トークテスト」は、運動をしながら会話ができるかどうかを計るものです。
このトークテストでは中程度の強度はどれくらいかというと、
運動をしながら問題なく会話ができるレベル
です。
ですが、ゆるやかなウォーキングでも会話はできるし、ジョギングでも会話はできます。
一体どこまでがラインなのでしょうか?
アメリカで妊娠中と産後の女性専門のフィットネストレーニングをおこなう『Oh!Baby Fitness』の創立者キャスリーン・ドナヒュー氏によると、
中程度の強度の運動とは、会話はできるけど歌を歌うのはキツいと感じるくらい
とのことです。
ですので、結構強度の高い運動が推奨されている、ということになりますね。
ゆるやかなウォーキングよりも、早歩きくらいが丁度よいかもしれません。
具体的に、妊娠中に安全とされているエクササイズとは?
以下が、合併症の心配のない妊婦さんに、安全とされているエクササイズです。
・スイミング
・エアロバイク
・ローインパクト・エアロビクス(ジャンプなどがないエアロビクス・エクササイズ)
・マタニティヨガ
・マタニティピラティス
・ランニング、ジョギング*
・ラケットを使ったエクササイズ**
・筋力トレーニング*
*産科医の指導に基づき、これらのエクササイズを妊娠前からおこなっていた人には安全といってもさしつかえない
**妊娠によるバランスの変化が、素早い動きや転倒を引き起こすリスクがある場合は避ける
妊娠中に安全ではないとされているエクササイズとは?
以下が、合併症があるなしに関わらず、妊娠中には避けるべきとされているエクササイズです。
・転倒・転落のリスクの高い活動(例:スキー、ウォータースキー、サーフィン、オフロード・サイクリング、器械体操、乗馬など)
・スキューバダイビング
・スカイダイビング
・ホットヨガ、ホットピラティス
ホットヨガやホットピラティスがNGの理由は、体幹温度が上がりすぎるため、胎児に影響を与える可能性があると考えられているからです。
同じ理由で、暑いお風呂やサウナで長時間過ごすことも注意が必要であると、ACOGガイドラインに書いてあります。
妊娠中の運動が「絶対禁忌」の人とは?
基本的に医師に運動を止められている妊婦さんは運動はNGですが、以下がACOGの定める「運動の絶対禁忌」の条件です。
- 特定の種類の心臓および肺疾患
- 子宮頸管縫縮術を受けている
- 早産の危険性のある双子または三つ子(またはそれ以上)の妊娠
- 妊娠26週以降の前置胎盤
- 流産または早産の危険性がある
- 破水している
- 妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧
- 極度な貧血
妊娠中の運動が「原則禁忌」の人とは?
「原則禁忌」とは、基本的にNGですが、医師の診断によっては運動が許可される可能性のある分類です。
いずれにせよ、こちらに該当する方は、自己判断での運動はNGですので、医師に相談するようにしてください。
- 貧血
- 未評価の(医師の診断のない)母体性不整脈
- 慢性気管支炎
- 管理不良の1型糖尿病
- 極度な病的肥満
- 極度な低体重(BMI12以下)
- 極度な運動不足な生活歴
- 現在の妊娠での子宮内発育不全
- 管理不良の高血圧症
- 整形外科的な制限がある
- 管理不良の発作障害
- 管理不良の甲状腺機能亢進症
- ヘビースモーカー
こんな症状があったらただちに運動を中止しましょう
普段問題なくエクササイズをしていても、こんな症状が現れたら、運動を中止するサインです。担当医師に相談するようにしましょう。
- 経腟出血
- 腹痛
- 規則的に起こる痛みのある陣痛
- 破水
- 息切れ
- めまい
- 頭痛
- 胸の痛み
- バランスを保つのに影響するほどの筋無力症
- ふくらはぎの痛みまたは腫れ
妊娠中の運動は「したほうがいい」
ACOGによると、合併症や禁忌のない妊婦は運動を「したほうがいい」と進めています。
注目すべきは、「してもいい」ではなく「したほうがいい」と言っている点です。
その理由として書かれているのが、妊娠中の運動不足や過度な体重増加は、母体肥満にともなう合併症を引き起こしたり、妊娠糖尿病のリスクとなりうるということ(2,3,4)。
医療従事者によっては、妊娠中の定期的な運動は流産や胎児発育不全、怪我や早産に繋がると信じて要る人もいますが、合併症のない妊娠に関しては、こういった懸念は実証されていないとのこと(5,6,7,8,9)。
よって、妊娠中の運動は推奨されるべきだと、ACOGは記載しています。
「ベッドで安静に」をACOGは推奨していない
早産を防ぐためにしばしば「ベッドで安静に」と医師に言われていることがありますが、ACOGによると、いくつかの論文では妊娠中に「ベッドで安静に」することが良いことなのか、確かなエビデンスがないとのこと(10,11)。
ACOGのスタンスとしては、「ベッドで安静には早産の予防に効果的ではなく、それほど勧められるものではない」と言い切っています。
理由は、長時間ベッドで安静を言い渡された患者は、静脈血栓塞栓症、骨の脱塩、体調不良などのリスクが高まるからとのこと。
このため、「ベッドで安静」ではなく、せめて歩いた方がいいと、勧めています。
ただし、これはあくまでも医療従事者が判断することで、自己判断はNGです。
今までは流産・早産のリスクがあるなら「安静に」が常識のようでしたが、ACOGはその常識を打ち破るような記述をしているんですね。
妊娠したらいつから運動していいの?
さらに気になるのは、いつから運動していいのか?という点。
一般的には「安定期を過ぎてから」と考えられていますよね。
しかしACOGは、初期から、中期から、といった線引きは特に設けていません。
合併症のリスク、禁忌、運動中止のサインがなければ、非妊娠時と同じように運動してよいというのです。
これはちょっと意外ですよね!
ACOGは、妊娠前から健康的なライフスタイル(運動、栄養バランスの取れた食事、非喫煙者)を送る女性には、それを続けるように推奨しています。
また、そのようなライフスタイルを送っていない女性は、妊娠を期にライフスタイルを見直すように勧めています。もちろん、定期的な運動もそれに含まれます。
これは運動したくてうずうずしている妊娠初期のママさんには朗報かもしれませんね!
妊娠中の運動は赤ちゃんには影響ないの?
妊娠中に運動をしても赤ちゃんに影響はないのでしょうか?ACOGガイドラインにはこう書いてあります。
赤ちゃんの心拍数
運動をすることで母体の心拍数が上がることで、胎児の心拍数の上がり過ぎが懸念されてきました。
しかしこれに関しては、母親が運動をしても、赤ちゃんの心拍数は1分間に10〜30回上がるのみであり、懸念されるほどのものではないという研究がいくつか出ています。
赤ちゃんの体重
妊娠中に運動をすると、低体重児が産まれるのではないかと懸念されてきました。
しかし、妊娠中に運動をしてもしなくても、赤ちゃんの体重に影響がないということが分かっています。
妊娠後期に運動を続けた女性の胎児は、何もしなかった女性よりも200〜400g軽かったというレポートがありますが、これも胎児の発育不全のリスクとは関係がなかったとのこと。
むしろ胎児が大きくなりすぎるのを防ぎ、スムーズな出産につながる可能性があります。
妊娠中の運動のメリット
妊娠中の運動にはたくさんのメリットがあります。
ACOGガイドラインでは、主に5つのメリットを挙げています。
2.体重が増えすぎるのを防ぐ
3.妊娠糖尿病の予防
4.精神の安定
5.腰痛の予防・軽減
特に腰痛に関しては、妊婦の60%が妊娠中に何らかの腰痛を訴えるものの、腹部のトレーニングによって腰痛が軽減する、とされています。
私も妊娠期間を通して筋トレをし続けましたが、体重も増えすぎることがなく、お産のいきみもスムーズで、産後の回復も早く、本当に良かったと思っています!!
個人的に感じたメリットについてこちらの投稿にまとめています。
「運動の禁忌」に該当しないのに、かかりつけの産科医に運動を止められてしまった場合は?
産科医によっては、「妊娠中の運動は絶対にダメ!」「心拍数の上がる運動は絶対NG!」という方もいらっしゃると思います。
私は妊娠産後専門のパーソナルトレーナーであり、当然医師ではないので、クライアントへの運動のご指導は原則、クライアントの医師の指示にしたがう必要があります。
しかし最初にも書いた通り、日本語で書かれている「妊娠中の運動ガイドライン」は、しばしばACOGの古い情報に基づいて書かれています。
医師の方の判断には敬意をもちつつ、あえて言わせていただくと、「合併症のない妊娠でも運動は絶対にダメ!」という医師の方は、古いガイドラインに基づいた情報で、そうおっしゃっている可能性があります。
それでもこれを読んでいるあなたが、妊娠中の運動は続けたいと思うのであれば、最新のACOGのガイドラインをかかりつけの医師の方にシェアしてみる、というのも一つの手かもしれません。
繰り返しますが、ACOGガイドラインは医師や助産婦などの医療従事者が参照する資料です。
妊娠中の運動プログラムの組み方
「中程度の強度の運動を週に150分ほど」が推奨されていますが、元々これくらいの運動をしていなかった妊娠中の方が、いきなり行うのは危険です。
ACOGによると、「中程度の強度の運動を週に150分ほど」行えるようになることをまずはゴールに、エクササイズプログラムを組むのが良い、とのこと。
最初は軽いウォーキングを週に数回から始め、早歩き、軽い筋トレなどを徐々に取り入れていくのはいかがでしょうか。
「中程度の強度の運動をしなきゃ!!」といきなりランニングやエアロビのクラスに行くのは絶対にやめてくださいね!
何をしたらよいのかわからない場合は、妊娠中の女性を専門としたエクササイズプロフェッショナルに相談してみてください。
もちろん、私のカウンセリングもオンラインで受けていただけます。
▶オンライン健康カウンセリング
まとめ
元々運動していた人ならあまり心配しすぎず、妊娠中に安全とされる運動を楽しんで良い、ということが分かりますね。
妊娠前に運動していなかった人でも、妊娠中は生活習慣を見直す良い時期です。
自分のためだけではなく、赤ちゃんのためになると思えば、運動も続けてみたくなるもの。
これを期に、運動習慣を身に着ける機会にしては?
出産直前までアスリート競技に挑む人もいるし、私も妊娠4ヵ月でLean Bodyのペアトレに出演し、ボヨンボヨンとジャンプスクワットをしていました。(もちろん、元々やっていない人はマネしないでくださいね!!)
妊娠中であれ、楽しめる運動はたくさんあります。
合併症のリスクがない妊婦さんは、怖がらずに、もっと運動しましょう!
1. The American College of Obstetricians and Gynecologists. (2020) Physical Activity and Exercise During Pregnancy and the Postpartum Period
2. American College of Obstetricians and Gynecologists. (2013) Obesity in pregnancy. ACOG Committee Opinion No. 549.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23262963
3. Dye TD, et al. (1997) Physical activity, obesity, and diabetes in pregnancy. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9400338
4. Artal R. (2015) The role of exercise in reducing the risks of gestational diabetes mellitus in obese women.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25240421
5. de Oliveria Melo AS, et al. (2012) Effect of a physical exercise program during pregnancy on uteroplacental and fetal blood flow and fetal growth: a randomized controlled trial.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22825089
6. Price BB, et al. (2012) Exercise in pregnancy: effect on fitness and obstetric outcomes-a randomized trial.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22843114
7. Barakat R, et al. (2014) Exercise throughout pregnancy does not cause preterm delivery: a randomized, controlled trial.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23676311
8. Owe KM, et al. (2012) Exercise during pregnancy and the gestational age distribution: a cohort study.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22143108
9. Thangaratinam S, et al.(2012) Interventions to reduce or prevent obesity in pregnant women: a systematic review.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22814301
10. American College of Obstetricians and Gynecologists. (2012) Management of preterm labor. ACOG Practice Bulletin no. 127.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22617615
11. Crowther CA, Han S. (2010) Hospitalisation and bed rest for multiple pregnancy. Cochrane Database of Systematic Reviews 2010, Issue 7.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20614420