私は4年前からいわゆる「ゆるグルテンフリー」生活を始めました。PMSとアレルギー改善のために食生活を変えようと思い、色々調べたときに、小麦は体を冷やす性質があるのと、血糖値を急上昇させてしまい、ホルモンバランスに影響するとどこかで読んだからです。なので、家では食べないけれども、外食時やもらったものは食べることにしていました。
2年前にニキビが酷くなってからは、血糖値のコントロールをするために精製された炭水化物はほとんど避けるようになり、もっとストイックにグルテンを排除するようになりました。
結果、PMSもニキビも改善されたわけですが、小麦粉が入っているものを食べない方が基本的に体調がいいので、付き合いの時などを除いては基本的にグルテンフリー生活を心がけています。
最近は普通のスーパーなどでもグルテンフリーの製品を見かけることが多くなりましたね。日本食は米が主食ですので、比較的グルテンフリー生活をしやすい環境といえますが、そもそも小麦粉の何が問題と言われているんでしょうか?
「やせるから」「流行っているから」「ダイエットのため」という理由でやみくもにグルテンフリーを始めるのではなく、まずはグルテンの問題点について理解しましょう。
今回の記事が、グルテンが自分の体に合うのか合わないのか、吟味するきっかけになればと思います!
免責事項
海外のリサーチやドクターの著書や記事を元に情報をまとめています。もしかしたら、これを読んで小麦粉を二度と食べたくなくなるかもしれません・・・読み進めるかどうかは自己責任でお願いいたします。
グルテンフリーについて理解しよう。グルテンってやっぱり避けた方がいいの?
そもそもグルテンって何?
グルテンとは小麦粉の麦芽に含まれるたんぱく質のことです。
グルテン(gluten)の語源はラテン語の「グルー(glue)」から来ており、糊のことを指します。
その名前からわかるように、グルテンは接着剤のような物質で、小麦粉の粒子同士をくっつけます。お蕎麦やつくねなどにも、よく小麦粉を「つなぎ」として使っていますよね。その「つなぎ」の成分がグルテンです。
グルテンは粘り気があり、パンが発酵するためにも必要な成分です。パンなどがフワッとふくらむのはグルテンの性質によるのです。
何に含まれているの?
小麦粉、ライムギ、大麦、スペルト小麦などの穀物に含まれています。料理で使う薄力粉、中力粉、強力粉はグルテンの含有量を指しています。名前の通り強力粉にグルテンが一番多く、パンやピザなどに使われています。ですので、私は特にピザを食べると最強に症状が出ます(泣)。薄力粉は、主にお菓子や揚げ物の衣として使われています。
グルテンは食べ物だけではなく、シャンプーや整髪剤、歯磨き粉などの日用品にも使われています。グルテンの「くっつく」性質を利用して、成分同士をまとめるためです
グルテンは、私たちが思っている以上に、ありとあらゆるものに使われています。スーパーやコンビニから小麦粉の使われていない商品を省こうとすると、おそらく2割くらいしか残らないでしょう。
グルテンの何がそんなに問題なの?
グルテンだけじゃない。色々ある小麦たんぱくと消化酵素
グルテンの問題点について説明するために、小麦粉の成分と消化について学んでいきましょう。グルテン一つとっても、色々な成分に分けられます。
ややこしい成分名が続きますので、興味のない方は飛ばしてください(笑)。
グルテンはグルテニンとグリアジンというたんぱく質から成っています。これは、パンを膨ませたり、モチモチした食感をもたらしてくれる成分です。
グリアジンには4種類あって、
α(アルファ)-グリアジン
β(ベータ)-グリアジン
γ(ガンマ)-グリアジン
ω(オメガ)-グリアジン
に分けられます。
小麦粉にはほかにも、グルテオモルフィン(gluteomorphin)やプロダイノルフィン(prodynorphins)などのアミノ酸、レクチンという糖タンパクが存在します。
小麦粉を食べると、トランスグルタミネーゼ(tTG:transglutaminases)といいう消化酵素が、成分を分解してくれます。この消化の過程で、脱アミノ化グリアジン(deamidated gliadin)やグリアドルフィン(gliadorphins)といったたんぱく質も生成されます。
セルリアック病とは?
セルリアック病(Celiac Disease)は、グルテンによって引き起こされる自己免疫疾患です。グルテンに含まれるα-グリアジンと、消化酵素トランスグルタミネーゼ-2(tTG-2)に反応して、小腸が炎症を起こし、胃痛や下痢が起こったり、栄養素の消化吸収がスムーズに行われなくなります。
結果、慢性栄養不足に陥ったり、子供の場合は成長が遅まったり(発育不全)、癌や精神疾患などの原因になります。治療の方法としては、食生活からグルテンを排除するしかありません。
セルリアック病は、α-グリアジンとtTG-2という特定の成分に対して反応するので、比較的テストで判明しやすいのですが、セルリアック病なのに消化系の症状が出ないという部類の人も実は多いことは、まだあまり認識されていません。そういった人には、脳や精神系のダメージが起こり、鬱や統合失調症、ADHDなどの精神疾患として出ることがあります。
一方で、グルテンを食べると何らかの症状が出るのに、セルリアック病のテストには引っかからないという人がいます。そういう人たちには、グルテン過敏症(不耐症)が疑われます。
グルテン不耐症/グルテン過敏症とは?
グルテン不耐症(gluten intolerance)または非セルリアック・グルテン過敏症(NCGS:non-celiac gluten sensitivity)とは、グルテンが入っている食べ物を食べると、同じく消化まわりのトラブルをはじめ、頭痛や精神疾患をわずらう症状です。
グルテン過敏症があると、多くの場合、食べ物が消化されずに糊のような物質として腸に残ってしまいます。すると免疫システムが稼働し、腸の粘膜を攻撃してしまいます。結果、腹痛、吐き気、下痢、便秘などの消化トラブルが起こります。IgGやIgAといった抗体が反応するのですが、症状がすぐに出る小麦アレルギーと違って、数時間後~数日後にわたって症状が現れます。なので、グルテンと症状の関係が気づかれにくいのです。
消化器系に影響がなくても、別の器官を攻撃することがあります。人によっては肌や内分泌系(ホルモンバランス)、神経系に出ることがあります。鬱とグルテン過敏症の関係性も、多くの研究で明らかになっています。
体が特定の食べ物に対してネガティブに反応すると、体は炎症伝達物質(サイトカイン)を出し続け、その食べ物を排除しようと働きます。
この過程が腸の細胞を傷つけ、腸壁を物質が通り抜けやすい状態を作ってしまいます。これを「リーキーガット症候群」といいます。リーキーは漏れやすい、ガットは腸という意味です。本来なら消化されて流されるべき物質が、腸壁から出て血流に乗ってしまい、体の色々な部分で炎症を起こしたりします。
グルテン過敏症についてはまだ未開な部分が多く、セルリアック病の検査に引っかからないため、「気のせい」だと片づけられてしまうことが多々あります。特に日本の医療機関では、栄養療法(オーソモレキュラー治療)や自然療法を行っている一部の自由診療の医療機関以外では、ほとんど理解がないといっても過言ではないでしょう。
しかし世界中ではグルテン過敏症に関する研究が進められており、最近ではα-グリアジン以外のグリアジン(ベータ、ガンマ、オメガ)やグルテニン、その他のたんぱく質や消化酵素に反応を起こす人もいることがわかってきています。
ただし、一般的なアレルギー検査やセルリアック病の検査では、グルテン過敏症の多くが正しく診断を受けられていない状況です。これを書いている2018年6月時点で、最も精度が高いと言われているグルテン過敏症の検査は、米国のCyrex Laboratories(サイレックス・ラボラトリーズ)というところが出しているArray 3です。この検査なら、12種類もの小麦たんぱくや酵素への反応を確認することができますが、残念ながら現時点ではアメリカ、カナダ、イギリスでないと受けられないようです。
グルテン過敏症は小麦アレルギーとは違うの?
いわゆる「小麦アレルギー」とは、小麦を含んだものを食べた後に、IgEという抗体が小麦をアタックしてしまうものです。数時間後~数日後に症状の出るグルテン過敏症と違って、小麦アレルギーはすぐに症状が出るのが特徴です。グルテン過敏症では、IgAやIgGといった抗体が稼働します。
症状は、吐き気、腹痛、かゆみ、口内の腫れ、呼吸困難からアナフィラキシーショックなど、命に係わるものまでに及びます。
小麦粉の消費と関連性のある病気・疾患
現在一般的には、グルテンにひどい反応をするのはセルリアック病、その他マイルドな反応をするのはグルテン過敏症(不耐症)という理解がされています。しかし、2つの成分のみに反応するセルリアック病よりも、さまざまな成分に反応してしまうグルテン過敏症の方が実はやっかいです。グルテン過敏症は診断がしにくく、見逃されがちですが、セルリアック病と同じように自己免疫疾患として扱うべき、という見解が海外の機能性医学の医療従事者の中では増えてきています。
小麦粉を食べることによって引き起こされる症状は、実に多岐にわたります。ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The New England Journal of Medicine)という医療雑誌では、グルテンを食べることによって引き起こされ得る55の病気をリストアップしています。その一部が下記です。
・骨粗しょう症
・炎症性腸疾患
・貧血
・癌
・慢性疲労
・口内炎
・リウマチ
・ループス(全身性エリテマトーデス)
・多発性硬化症
・甲状腺機能低下症
・不妊症
・ぜんそく
また、下記のような精神・神経疾患にも深く関連していることがわかってきました。
・不安感
・鬱
・統合失調症
・認知症
・片頭痛
・てんかん
・神経障害
・自閉症
にわかに信じがたいものも含まれると思いますが、少し研究論文をさかのぼれば、これらの関連性を示す文献がたくさん出てきます。
どうしてこうなってしまったのか?
それは私たちが食べているものが変化してきていることに関連があります。
私たちが今食べている小麦は、昔のものとは全く別物
小麦は何万年も前から食べられている伝統的な穀物なんだから、現代になってグルテンうんちゃらとかいって騒がれているのはおかしくない?と思われるかもしれません。
2000年も前に書かれた聖書にも「人はパンのみに生きるにあらず」なんて書いてありますよね。パン食べて生きてたんじゃん!って。
でも、今私たちが食べている小麦粉は品種改良が繰り返し行われており、古代のものと全く別物だと知っておく必要があります。
現代の小麦の発祥となるのは、アインコーン小麦(eincorn wheat)と呼ばれているもの。穂が長く、成長すると茎が垂れ下がってしまい、大量生産が難しかったと言われています。
そこで、ミネソタ大学のノーマン・ボーローグ教授(Dr.Norman Borlaug)が1960年代に、成長しても茎が短いままの矮性コムギ(dwarf wheat)の品種改良に成功します。ボーローグ教授は1970年にノーベル平和賞を受賞し、矮性コムギは「高収量型小麦」として世界中に普及し、世界の飢餓を救うこととなります。
▼ボーローグ教授
出展:国連大学
これが1940~1960年の間に行われた「緑の革命」の一大イベントです。この頃に、小麦だけでなく様々な食糧の品種改良が行われ、農薬が使われるようになり、食物の生産量が大量に増えました。結果、飢餓が大幅に減り、人口が爆発的に増加することになるのですが、この時をきっかけに、私たちの食べ物はがらりと変わってしまったのです。
現在、世界中に流通している小麦粉の99パーセントが、この時改良された矮性コムギだと言われています。
品種改良された小麦には、改良前にみられなかった新たなたんぱく質の数々が加わっています。また、1世紀前の小麦と比べると、現代の小麦には、セルリアック病にかかわるグルテンの含有量も多いということが分かっています。
古代のアインコーン小麦は、現在の小麦のほどグルテンが含まれていません。なので、アインコーン小麦で焼いたパンはふっくらとは膨らまず、おせんべいのような感じだそうです。
また、品種改良に合わせて脱アミノ化も行われています。脱アミノ化することで、水に溶けやすくなり、他の食材と混ざりやすくなるためです。セルリアック病のテストで陽性にならなくても、この脱アミノ化されたグルテンに過敏症がある人は、精神疾患として症状が出やすいそうです。
これは小麦だけに限られませんが、品種改良されたものが長期的にみて私たちの体にどんな影響を及ぼすか、十分な研究がなされる前に爆発的に流通してしまったということです。
その他知っておきたい小麦の懸念点
グルテンだけではなく、小麦の他のさまざまな成分によって不調が引き起こされることがあります。
アミロペクチンAが血糖値を急上昇させる
小麦粉には、アミロペクチンAという糖質の一種が含まれています。これは、消化・吸収されやすく、糖質の中でもダントツに血糖値を急上昇させます。
血糖値が急上昇するとインスリンが大量放出され、脂肪をため込んだり低血糖になったりと、諸々の問題が発生します。
▼血糖値とインスリンについて
アミロペクチンが含まれているのは小麦だけではありません。例えば豆類にはアミロペクチンC、バナナなどにはアミロペクチンBが含まれていますが、小麦に含まれているアミロペクチンAほど、血糖値を急上昇させないとされています。
また、白い小麦粉よりも全粒粉の方が、食物繊維が多くてヘルシーなイメージがあります。が、実はGI値で見ると全粒粉のパンは72、白いパンは69となっていて、白砂糖の59より高くなっています。
コーラよりも全粒粉のパンの方が血糖値を上げやすいんですね。
グルテンではなくてレクチンに反応する人も
小麦粉たんぱくにはグルテンだけではなく、レクチンという糖タンパクも存在します。これは、小麦胚芽アグルチニン(wheat germ agglutinin)または小麦胚芽レクチンと呼ばれる成分で、全粒粉に多く含まれます。
人によっては、グルテンではなくこの成分に反応し、全身に炎症が出たり、自己免疫反応が起こったりすることもあるとされています。
ドラッグに似た中毒性がある
グルテンは体内で特定の消化酵素と交じり合うと、分解されてペプチド(ポリペプチド)というアミノ化合物に変化します。このアミノ酸の配合がモルヒネに似ていることから、血管と脳を行き来する「血液脳関門」を突破してしまいます。脳内に入ると、モルヒネの受容体(レセプター)にはまります。
このため、小麦が入っているものに中毒になりやすく、ドラッグと同じようにやめるのが難しいのです。ケーキやお菓子をなかなかやめられないのはことためです。
人によっては、小麦粉断ちをしようとすると、数週間コカインと同じような禁断症状に苦しむことになります。
小麦製品を選ぶことのその他のリスク
成分の他にも、小麦にはいくつか懸念点があります。
農薬の問題
日本の2017年の小麦粉の食料自給率は14%で、ほとんどを海外からの輸入に頼っています。
輸入元の46%はアメリカ、次いでカナダが33%、オーストラリアが15%です。アメリカUSDA(農務省)によると、2011年時点で小麦の有機栽培をしている農場は全体のわずか0.63%。カナダとオーストラリアはデータがありませんが、日本に入ってきている小麦の半数、またはそれ以上が農薬を使ったものと考えて間違いないでしょう。
何気ない気持ちで食べたラーメンや、コンビニで買ったサンドイッチと一緒に、「クロロフェノキシ酸系除草剤」やら「ヒドロキシベンゾニトリル」やら「ベンジルオキシカルボニルアミノ酢酸メチル」?!?!やらを食べているわけです。もちろん成分表には記載はありません。
農薬は体に炎症を起こしたり、ホルモンバランスを崩したりと、体にとって良いことはほとんどないので、知らず知らずのうちに大量摂取をするのは避けたいところです(これは小麦に限らずですが)。
精製された小麦はカンジダの元に
真っ白に生成された小麦粉は、血糖値を跳ね上げるだけではなく、腸内の悪玉菌の大好物。
グルテン過敏症がなくとも、腸内の悪玉菌が増えるきっかけを作ってしまい、カンジダなどの症状の原因になることも。これは小麦だけでなく砂糖が原因でもなりますが、人知れず膣の痒みに悩まされている人は要注意です。
添加物や油を余分に摂取することになる
また、お米はお米単体で食べますが、小麦粉のみを粉の状態で食べることはしません。必ずパンやケーキなどの形に、加工されたものを食べます。パンには油、安定剤、防腐剤、甘味料などが含まれており、米食であれば摂取しなくて済んだ油分や添加物を摂ることになります。市販の小麦製品に使われている油は、ショートニングやマーガリンなどのトランス脂肪酸や、植物油や大豆油などの精製されたオメガ6系の油が一般的。酸化・炎症を促進するものばかりです。
これは小麦粉のパンに限らず、グルテンフリーのパンにも言えることですが、ダイエットを気にしているのであれば、余計に代謝を下げるようなものは摂りたくないところです。
まとめ
以上、小麦やグルテンの問題点について並べてみましたが、小麦を使った食べ物が大好きという方は、憤りに近いものを感じてしまっているかもしれません。今後もう小麦が食べられない・・・と絶望感を感じているかもしれません。
私だって、小麦&甘いもの中毒でしたから、初めてこういったことについて知った時、「もうやめて!!知りたくない!!」と思いました。
でもグルテンを抜くことで諸々の不快な症状が軽減されることを体感し、徐々に体で理解していくようになりました。「あ、この食べ物、美味しいけど体に合わないんだな」って。
小麦とグルテンの問題点について理解するのは一つのステップ、今後食べるか食べないかの選択はもう一つのステップだと思っています。
それについて次の記事で見て行きましょう!
William Davis MD(2014). Wheat Belly: Lose the Wheat, Lose the Weight, and Find Your Path Back to Health
Dr. Datis Kharrazian(2013). Why Isn’t My Brain Working?: A revolutionary understanding of brain decline and effective strategies to recover your brain’s health
M. Lammers et al. Gliadin Induces an Increase in Intestinal Permeability and Zonulin Release by Binding to the Chemokine Receptor CXCR3
Yvonne van de Wal et al. Glutenin is involved in the gluten‐driven mucosal T cell response
Willemijn Vader et al. The gluten response in children with celiac disease is directed toward multiple gliadin and glutenin peptides
Laboratory of Skin Biology. Transglutaminases in disease.
Hetty C. van den Broeck et al. Presence of celiac disease epitopes in modern and old hexaploid wheat varieties: wheat breeding may have contributed to increased prevalence of celiac disease
Dr. K. News. What type of gluten intolerance do you have?
The New England Journal of Medicine. Celiac Sprue
Lionetti et al. Gluten Psychosis: Confirmation of a New Clinical Entity
Dr. Mark Hyman. Gluten: What You Don’t Know Might Kill You
e-Stat. 2016年農林水産物輸出入統計
農林水産省. 総合食料自給率(カロリー・生産額)、品目別自給率等USDA. Organic Production. Table 3. Certified organic and total U.S. acreage, selected crops and livestock, 1995-2011