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英語誌Tokyo Weekenderに「日本の拒食症の現状」に関する記事を執筆させていただきました

Tokyo Weekender Starving for Conformity by Health Coach Yumi Idomoto

Tokyo Weekender Starving for Conformity by Health Coach Yumi Idomoto

今年で創刊47年を迎えた英語誌Tokyo Weekenderの11月号にて、「日本の拒食症の現状」に関する記事を執筆させていただきました。

実は私自身も軽度でしたが拒食症・過食症を経験したことがあったので、今回のトピックに関しては調査をしていて非常に考えさせられるものがありました。

Tokyo Weekenderは日本に住む外国人向けの情報を発信しているので、外国人向けの目線ではありますが、日本語訳を掲載するのでぜひ読んでみてください!

英語記事オンライン版はこちら

雑誌版はこちら (November 2017 Issue内)

調和を求めての飢餓
日本で増加する摂食障害:その理由、支援の欠如、対策の現状

2016年12月、宮内庁からある写真が発表され、国内に衝撃が走った。それは、愛子さまの15歳の誕生日祝いの写真だ。その写真に写る愛子さまは、わたしたちが慣れ親しんだ愛子さまのお姿とは変わり果てていた――明らかに相当の体重が落ち、痩せて弱弱しいご様子だ。天皇家の発表によると愛子さまは「一時的な体調不良」とのことだが、マスコミは拒食症の疑いについて騒ぎ立てた。

今年の9月には、モデル・女優かつ元AKB48の光宗薫さんがツイッターで活動休止を伝えた。その理由とは、長期に渡り患っていた摂食障害だ。

激やせとそれに伴う病気に関して注目を浴びた有名人は今までにも数多く、愛子さまや光宗さんが初めてというわけではない。しかし多くの外国人にとっては、健康食や低い肥満率、長寿(WHOによると、2016年時点で日本はまだ世界最長の長寿国)で知られた日本でさえ、摂食障害に関しては例外ではないということは驚きかもしれない。

しばしば単一民族国家と呼ばれる日本はその調和性で知られ、人々の多様性が他国に比べて乏しいとされている(少なくとも表面上では)。欧米に比べると一般的に体格も小さめで、社会のあらゆる面で見た目に関する規則が存在する。たとえば学校では学生は制服を着なければならないし、髪を染めてはならない。時には自然の髪の色が明るめであると、黒染めを求められたりする。周りと同じくらい痩せていなければならないというプレッシャーがあるのも自然な流れだ。

 

日本では、40歳~74歳向けに政府に義務付けられた『メタボ健診』たるものもある。腹囲の基準が男性は85cm、女性は90cmに定められ、毎年会社の健康診断でモニタリングされる。このような環境下では、人々がダイエットをして周囲と同じ外見でいるプレッシャーにさらされるのは無理もない。驚くことに、グーグルで「拒食症」と日本語で検索すると、関連ワードの一つに「拒食症 なりたい」と上がってくるのだ。

管理栄養士で拒食症の経験がある鈴木真美さんは、摂食障害関連の相談は確実に増えていると語る。「一般的に、拒食症を患うのは完璧主義でいわゆる優等生タイプの方々が多いです。主な原因はやはりダイエットが引き金になることが多いと思いますが、そのダイエットに至る原因は様々です。」鈴木さんご自身は、高校生の時に軽い気持ちで始めたダイエットが原因で拒食症になってしまったそうだ。「日本では男女問わず、太っているとネタにされ笑われたりしますから。」と、鈴木さんは語る。

2016年に設立された一般社団法人日本摂食障害協会(JAED)の理事である、西園マーハ文先生に詳しく話を伺った。「摂食障害の発症は、『やせてきれいになりたい』という動機だけで起きるわけではありません。ここは非常に誤解されている部分だと思います。実際の事例は、例えば、もともと『良い子』で努力家の女性が、勉強やスポーツなどで挫折体験があり、成績が落ちてきた。さらに食べる時間も惜しんで努力を続けた。周囲からやせてきれいになったと言われた。そのことで『食べない』ことをやめられなくなった、などの発症パターンが多いのです。成績は自分が努力しても他に優れた人がいれば1位になれませんが、体重を減らすのは自分の努力でもいくらでも『結果』が出ますから。」

他国と比べると、日本には拒食症が多いのだろうか?その答えは単純ではないようだ。西園マーハ先生はこう説明する。「摂食障害というのは、拒食症も過食症も、症状があっても受診率が低く、正確な有病率は把握しにくい疾患です。軽い症状を持つグレーゾーンが厚いので、どこまでを疾患と呼ぶかで有病率は変わってきます。診断基準に全部あてはまるような拒食症の有病率は、若年女性の1%弱、過食症は2%前後と考えられています。新しい拒食症事例の発生は、人口10万に5~7というのが先進国の平均値で、日本もほぼ同じくらいだろうと考えられています。小さい数字に見えるかもしれませんが、東京では、毎年600~800人の新規発生があるということになります。ただしこれは、拒食症の疑いがあっても受診していない層は含みません。」

 

ほとんどの海外先進国に存在する摂食障害専門の治療施設が日本にはまだ一つもない

統計に関わらず、大きな問題の一つは支援のなさだ。西園マーハ先生によると、ほとんどの先進国には摂食障害専門の治療施設があるが、日本にはTELLなどの民間のサポートグループやその他オンライン掲示板の他に、きちんとした施設がまだ設立されていないのだ。2014年、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所(NCNP)内に摂食障害全国基幹センターという部門が設立され、研究や情報発信が可能になった。このセンターの統括の下、いくつかの県では摂食障害の相談業務等の開始に向けて動いている。残念ながら、東京都内にはまだ摂食障害専門の医療施設はできていない。

JAEDの前身である摂食障害センター設立準備委員会では、2011年から2013年にかけて、専門施設の設立に向けて署名活動や講演会を行った。しかし、そのような施設が設立されたとしても、新しい問題が起こる可能性はある。「あらゆる症状の方々が治療に殺到してしまったら、重症で最も治療を必要としている人が予約待ちということになってしまっては意味がありません。今、日本に必要なことは、医療現場で摂食障害を特別視せず、プライマリケアができる人を増やすことです。日本の精神科医療の中には臨床心理士の治療がまだきちんと組み込まれておらず、薬物の処方中心になっています。こういった教育の改善の必要もあります。」と西園マーハ先生は語る。

JAEDの目的の一つは、摂食障害に対する認知を高め、医療従事者等に向けてセミナー等を行うことだ。今年度は、臨床心理士、管理栄養士、歯科衛生士、スポーツトレーナー向けに研修を実施している。

日本で摂食障害に苦しむ外国人に対して、まずは信頼のできる方に相談することが大切と西園マーハ先生はアドバイスする。「英語を話す専門家が見つけにくい場合もあるかと思いますが、一人で抱えているとなかなか摂食障害の偏った食生活を抜け出せません。日本に来ると、自分の国ではMサイズだったのに日本ではLサイズになってしまうのが不愉快、食べ物の店が多すぎるというような声をお聞きすることもあります。一方で、日本では健康な食品が手に入りやすい、盛りが小さい、街を歩くのが比較的安全だから身体を動かしやすいなど健康な生活を取り戻すのに良い面もあります。」

管理栄養士の鈴木真美さんは、より良い食習慣の重要性を伝えるために定期的に料理教室を開催している。「管理栄養士として、私が治してあげることは出来ないのですが、克服へのきっかけや参考になればと、当時の思いや考え方など自分の経験を伝えています。摂食障害克服には、本人の『克服したい』という意思が必要です。」

最近では、アシュリー・グラハムなどの海外のプラスサイズモデルが、自分自身の体格を受け入れることを主張し、「痩せていればいるほどよい」といった概念を変えていく重要性を訴えている。そして日本でも、似たような動きが見られるようになった。2013年には、日本で初めてぽっちゃり系の女性のための雑誌「la farfa(ラ・ファーファ)」が創刊された。また、今年の9月には、史上初のプラスサイズ向けファッションショー「東京グラマラスぽっちゃりコレクション 2017秋冬」が行われた。多くのブランドがスポンサーとなり、新たに独自のプラスサイズラインをリリースしている。

日本の社会全体として、摂食障害や体形に関する見方を変えていかなければいけない一方、こういった小さな変革がきっかけになるのではないだろうか。体形や見た目の多様性がもっと受け入れられ、苦しんでいる人々に手を差し伸べられる社会に向けて。

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