先日行った目白大学英米語科での講義「世界で拡大する健康格差 ~世界一の長寿国日本でも 縮まり続ける健康寿命~」から、今度は日本での実情についてです。
前編を読んでいない方はこちらから
前の投稿 ≪ アメリカで拡大する健康格差~目白大学英米語学科の講義から①
日本でも長期的には増えている肥満率
さて、アメリカの実情を前編で書きましたが、今度は日本の方はどうでしょうか?
肥満の割合を見ていきましょう。
肥満を判定するのによく使われる指標はBMIといって、体重÷身長の二乗によって求められる数値です。健康診断などで見たことがあるかもしれません。BMIが25以上であると肥満に分類されます。
日本でBMI25以上の人の割合は、2015年の厚生労働省の調査によると男性で29.5%、女性で19.2%となっています。
高いと思いますか?低いと思いますか?
実はこの割合、ここ10年ほとんど変化がないそうなんですね。
ちなみに都道府県別でいうと、肥満が多い県は
1位:沖縄県
2位:宮崎県
3位:栃木県
4位:福島県
5位:徳島県
となっています。
ちなみに東京は24位です。
電車や徒歩移動が多く、活動量が多いからでしょうか。
沖縄は米軍基地もあり、アメリカナイズされた食事が好まれる傾向にあるから、または暑いので外に出なくなり、活動量が少ないからかと思います。
ただ、肥満者の割合は1980年以降、男性は30%、女性は20%増えています。
30年と長いスパンで見ると増加傾向にあるのは変わりません。
一方で、世界と比較してみても、日本は肥満の割合が少ない方で、OECD加盟国の中でも下から3番目くらいです。
ちなみに厚生労働省の調査では男性の肥満が29.5%と発表されていますが、それと比較してこの表では3.6%なのは、これはBMI30以上の人を対象としているからです。
そう考えると、日本にはBMI25~30くらいのチョイメタボの人が大半なんですね。
日本は世界有数の長寿国
WHOによると、日本は2016年時点で最長寿国となっています。
2位がスイス、3位がシンガポールです。でも男性だけで見ると世界6位なんですね。
2017年3月1日時点で、日本人の平均寿命は男性で80.75歳、女性は86.99歳と、日本でも過去最高を更新しています。
なぜ日本人が長生きかというのには諸説があります。
1.遺伝要素
黄色人種は環境適応力が高いそうです。白人よりも紫外線に強く、黒人よりも寒さに強いとか。
2.食べ物
醤油納豆味噌漬物などの発酵食品、わかめやシソや山菜などの抗酸化力の強い食材、魚介類などの心臓や脳の健康に良い良質の油
3.生活習慣
お風呂の文化や、よく歩くことが貢献しているようです。
4.充実した制度
国民健康保険、生活保護、年金等が充実していて、お金がなくて病院にかかれないということがめったにない。
長生きで肥満が少なくて、健康そうな国ですね日本は。
でも本当にそうでしょうか?
日本でも広がる健康格差
中流階級が人口のほとんどを占めていると言われている日本でも、生活保護世帯数は213万世帯(2017年4月)。これは日本の全世帯の10%にあたります。
また、日本でも学歴、所得、職業などの社会経済的背景によって健康に格差が生じているという研究成果が報告されています。
・低学歴の人の割合が多い地域ほど全体的な死亡率、自殺死亡率が高い傾向に
・喫煙者が多いため循環器疾患危険因子が多い
・睡眠時間が短い
・諸々の不調など自覚症状の報告が多い
・所得の低い地域に住んでいる人ほど死産、子宮および肺の悪性腫瘍が多い
子供にも広がる健康格差
最近はメディア等でも子供の貧困が取り上げられるようになりましたが、まだ政府を挙げての調査はされていないようです。ただ、それを示唆するような報告はたくさんあります。
・東京都 23 区の調査では、 平均所得が低い区ほど 小学校6年生に虫歯が多い
・0~4歳の間に貧困の経験がある子供では、 4歳時点での低身長、低体重、入院回数が多い
・貧困家庭に育った子供は、最終学歴が低くなり、 成人後の所得が少ないことに加えて、 主観的な健康感も低い
※日本学術会議より
老後を快適に過ごせない人も増えている
・認知症の増加
認知症を患う人は年々増え続けていて、2010年には280万人だったのに、たった2年後の2012年には462万人となっています。そして2026年には730万人を超え、高齢者の5人に1人が認知症患者になることが見込まれています。
この数値は、軽度認知障害(MCI)を抱えている人を含めていません。MCIは正常でもなく、認知症でもない状態で、適切な措置を取らないと将来的に認知症を発病する可能性のある状態です。その割合を含めると、認知症傾向のある人々はもっと多いということです。
ちなみに日本での認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病は、脳がエネルギー源としてグルコースを上手く使えなくなる病気で、第三の糖尿病と言われています。
糖質過多の状態が続いて常に血糖値が高いと、血糖値を下げるためのインシュリンが出にくくなったり、インシュリンの効きが悪くなります。その状態が第二型糖尿病ですが、アルツハイマー病はさらに段階が進み、脳が糖質をエネルギーとして使えなくなってしまう状態です。
ですのでアルツハイマー病の原因の一つは食生活といえます。食生活に気を付けていれば認知症はある程度予防できるのです。
・寝たきり老人の増加
要介護者が激増しています。内閣府によると、2013年度末での要介護者は569.1万人で、2003年度末から198.7万人も増加しています。
これは高齢者自体が増えたこともあるとは思いますが、75歳以上で特に多くみられます。
日本の平均寿命は女性ですと86歳ですので、長生きはできても人生最後の10年は寝たきりという高齢者がこんなにたくさんいるのです。
うつ病患者の激増
うつ病患者は2014年には110万人を突破しました。これは10年前の2.6倍です。
2016年の自殺者数は2万1897人で、3人に2人は心身の健康問題が原因と言われています。
睡眠不足による生産性の低下が深刻な問題に
日本は長時間労働を強いられることの多い文化です。睡眠不足は翌日に頭痛や倦怠(けんたい)感を引き起こし、日常生活に支障を来します。
また、労働者の生産性を低下させ、死亡リスクを高めることにより、日本経済に多大な損失をもたらしています。睡眠不足による経済損失額を国内総生産(GDP)比で見た場合、日本は約14兆円損失しています。
このように、生きているのに死んだように生きている人が増えているのです!
原因は何か?
ストレス社会、運動不足、睡眠不足、環境汚染など様々な理由はありますが、やはり食べているものに一番問題があると思います。
・今の食べ物は昔と違い、かなり加工されているので 栄養価が低い
アメリカ版の冒頭にも触れましたが、今私たちが食べている食物は同じものでも50年前、100年前とは全く別物です。品種改良で見た目は良くなっているのかもしれませんが、農薬などの利用で栄養価は落ちています。
アメリカのとある清涼飲料水会社は、商品に砂糖を入れれば入れるほど売れることに気が付きました。でも砂糖を入れ続けてもある一定のポイントを過ぎると売れなくなったそうです。これはブリスポイント(至福点)と呼ばれています。ブリスポイントに満たなくても、オーバーしても、売上は伸び悩むとか。このように、大企業はマーケティングと商品開発の手法をこらして、どうやったらもっと売れるか、リピートして買ってくれるかブリスポイントを追求しているのです。
作り手は消費者が「おいしい」と思って買ってくれることは考えているかもしれませんが、消費者の長期的な健康まで配慮してはいません。
・圧倒的に炭水化物ばかり
日本食は健康的とは言われていますが、外食しようとするとそばにどんぶりがついてきたりと、炭水化物が多すぎます。また、日本食はしょっぱいのに隠し味で砂糖が大量に使われていたりします。外食では野菜が圧倒的に少なく、炭水化物と肉ばかりでビタミンやミネラルなどの必要な栄養素はなかなか十分に摂取できません。
・悪質な油が使われている
食物油、サラダ油、コーン油、大豆油。これらの油は人工的に作られている油で、作る過程で植物の栄養素は全くなくなっている上、大量の薬品も使われています。またこれらはオメガ6系の油なので、体に炎症を起こします。
また、パンやケーキに良く使われるマーガリンやショートニングは体を酸化させ、血管を詰まりやすくさせてしまいます。
そして現代人には魚などから取れるDHAやEPAなど、オメガ3系の油が圧倒的に不足しています。
これからは、食べるものを賢く選んでいかなければいけない時代です。
そのためには自分の日々食べているものを意識し、これは体にとって健康なのか、そうではないのか見極める必要があります。知識が自分を守ってくれるのです。
やはり教育が大事だが・・・
添加物、残留農薬が体に悪いのはもちろんですが、砂糖、小麦粉、食物油などが体をむしばんでいるなんて教育はされません。
なぜでしょうか?儲かるからです!
こういった企業はお金を持っています。たくさんテレビや雑誌に広告を打って、自分たちの商品を売ろうとしています。
こういった企業からお金をもらっているメディアは、砂糖、小麦粉、食物油が体に悪いなんて言うと思いますか?言わないですよね。
こういった企業からたくさん税金をもらっている国はどうでしょうか?こういう企業に不利な政策は作れないですよね。
だからこそ、私たち消費者がかしこくなる必要があるのです。
口の中に入れるものが細胞を作る
あなたはどちらの食べ物で細胞を作りたいですか?
口に入れたものが細胞を作るのです。心臓、皮膚、髪の毛から脳細胞まで、全て口に入れたものから作られています。
IT用語ではJunk In、Junk Outという言葉があります。間違いだらけのプログラミングばかり打ち込んでいると変なシステムが出来てしまうよという意味です。
体もこれとまったく同じで、カップラーメンで細胞を作っていたらいいパフォーマンスを出せないのは当たり前です。
じゃがりこやグミばかり食べていたら頭がぼーっとして疲れが取れないのは当たり前です。
わたしたちにできること
・もっと野菜やたんぱく質、良質な油をしっかり摂ろう
これもあれも食べちゃいけないなら一体何を食べたらいいのよ!とよく聞かれますが、食べていいものはたくさんあります!分かりやすい例があります。
原始人と出会ったとしましょう。これ何?って聞かれて、簡単に説明できるものを食べましょう。
トマトだったらトマトと説明して伝わると思いますが、ドーナツは簡単に説明できますか?
小麦粉とベーキングパウダー、ショートニングに砂糖・・・え?何?ってなりますよね(笑)
・白砂糖や添加物を使っているものは極力控えよう
これらを避けるだけで大抵のジャンクフードは避けることができます。
なかなか全てを避けるのは難しいですが、毎日食べていたお菓子を3日に1回、それができたら1週間に1回と、ちょっとずつ減らしてみましょう!
・ラベルを見て、カタカナばかりの原材料を使っているものは避けよう
こちらはとある梅干しのパッケージですが、アスパルテーム、Lふぇにるあr・・・?!
梅干しなら梅と塩でよくない?!とホント思うのですが、いまどき梅干しには甘味料を8種類も入れるらしいです(はちみつ、砂糖、ブドウ糖果糖液糖、ソルビトールも甘味料)。意味不明ですよね!
とにかく読んでもよく分からない調味料を使っているものは避けたほうがよさそうです。
まとめ
100年前の人間の生活と、今の生活は違います。色々便利になり、お店で何でも買えるようになりました。でも、安全ではない食べ物が増えました。
口に入れたものが細胞を作り、脳を作り、その脳を使って考えて行動したことが、他人の人生に影響を及ぼします。その影響は連鎖して、社会をつくり、自分への影響として戻ってきます。
自分のためだけではなく他人へ、社会への良い影響のためにも、健康に良い選択をしていきましょう!便利になった分、消費者としてかしこくならなければならない時代だということを、覚えていてほしいです。
最後に生徒さんたちと一枚
生徒さんたちも健康について興味津々でした!
これから日本の未来を作っていく若い方たちです。
健康に気遣って、一緒に良い未来を築いていきたいものです!
<参考文献>
厚生労働省. 平成27年「国民健康・栄養調査」の結果
厚生労働省. Ⅱ.日本人の食事をめぐる状況と「健康な食事」のあり方
厚生労働省. 生活保護の被保護者調査(平成 29 年4月分概数)の結果
内閣府. 平成28年版高齢社会白書
日本学術会議. わが国の健康の社会格差の現状理解 とその改善に向けて
国立保健医療科学院. 今井博久(2017). わが国の健康格差と経済格差
東京大学. 日本の「健康社会格差」の実態を知ろう
鹿児島認知症ブログ. 第3の糖尿病と呼ばれるアルツハイマー型認知症
朝日新聞. 自殺の動機、3人に2人「心身の健康問題」 対策検討へ
Bloomberg. 寝不足がもたらす膨大な経済損失、頭痛だけでなく生産性の低下も